Drama
14 to 20 years old
2000 to 5000 words
Japanese
朝、いつものように光が差し込むはずの部屋は、カーテンが閉め切られ、重苦しい沈黙に包まれていた。主人公、ユウキは、ベッドに座り込み、目の前の光景から目を逸らそうと必死だった。妹のサキは、もういない。首を吊って、静かに、まるで眠るように、その短い生涯を閉じてしまった。
サキは、明るくて活発で、誰からも愛される女の子だった。ユウキにとって、サキは妹であり、親友であり、何よりも大切な存在だった。そんなサキが、なぜこんなにも残酷な運命を辿らなければならなかったのか、ユウキには理解できなかった。
サキが亡くなった原因は、いじめだった。学校で、一部の生徒から執拗ないじめを受けていた。それをユウキは知っていたが、サキはいつも『大丈夫』と言って、ユウキを安心させようとしていた。だが、本当は、彼女の心は限界を超えていたのだ。
サキの葬儀の後、ユウキの心は闇に染まっていった。悲しみ、怒り、そして何よりも、深い絶望感。サキを死に追いやったいじめの加害者たちへの、どうしようもない復讐心が、ユウキの心を蝕んでいった。
ユウキは、加害者たちを、サキと同じ目に遭わせようと決意した。最初は、直接的な暴力も考えた。だが、それはサキが望むことではないだろう。サキは、そんなことをするような人間ではなかった。
そこでユウキは、別の方法を考え始めた。もっと巧妙で、残酷な方法を。そんな時、インターネットの掲示板で、ある噂を耳にした。
『見たら確実に鬱になり、みな首を吊り戻ってこないという闇の動画投稿チャンネルがある』というのだ。それは、単なる噂話に過ぎないかもしれない。だが、ユウキは、その言葉に強く惹かれた。まるで、闇の中に一条の光を見出したかのように。
ユウキは、その動画投稿チャンネルについて調べ始めた。チャンネルの名前は『Black Butterfly』。主に、人間の闇や絶望をテーマにした動画を投稿しているらしい。チャンネルの登録者数は異常に少なく、コメント欄はほとんど機能していない。ただ、いくつかの動画には、匿名のコメントで『もう、終わりにしたい』とか『楽になりたい』といった書き込みが見られた。
ユウキは、直感的に、このチャンネルは何かおかしいと感じた。ただのホラー動画チャンネルではない。闇の中に、さらに深い闇が潜んでいるような、そんな気がしたのだ。
ユウキは、そのチャンネルの従業員になろうと決めた。復讐のためには、どんな手段も厭わない。たとえ、自分が闇に堕ちることになったとしても。
ユウキは、巧みな嘘と偽りの履歴書で、『Black Butterfly』の面接を突破し、見事採用された。採用された部署は、なんと『アイドル部門』だった。
『Black Butterfly』は、表向きはホラー動画を投稿するチャンネルだが、その裏では、ある恐ろしい計画が進められていた。それは、人間の闇を増幅させ、絶望に突き落とすことで、新たな動画のネタを生み出すというものだった。
ユウキは、アイドル部門で『闇のお姉さん』というキャラクターを演じることになった。優しい笑顔の裏に、冷酷な闇を隠し持つ、サイコパスな女性を演じるのだ。
ユウキは、自分の過去を隠し、別人になりきって、与えられた役割を完璧にこなした。闇のお姉さんとしてのユウキは、動画の中で、悩みを抱える視聴者に優しい言葉をかけ、共感し、寄り添う。だが、その言葉の裏には、巧妙な罠が仕掛けられていた。
ユウキは、視聴者の心の闇をゆっくりと、確実に、増幅させていく。希望を奪い、絶望を植え付け、死への誘いを囁く。そして、視聴者が完全に闇に堕ちた時、その姿を動画として投稿するのだ。
最初は、罪悪感に苛まれた。自分がしていることは、殺人と何ら変わらない。だが、ユウキは、サキの笑顔を思い出すたびに、罪悪感を押し殺した。これは、復讐なのだ。サキを死に追いやった加害者たちへの、正当な報復なのだ。
時間が経つにつれて、ユウキは次第に、闇のお姉さんとしての自分に染まっていった。嘘をつくこと、人を騙すこと、絶望させることに、何の抵抗も感じなくなった。むしろ、快感を覚えるようになった。
ユウキは、完璧なサイコパスになっていったのだ。それは、サキを失ったことによる、心の傷が作り出した怪物だった。
ある日、ユウキは、動画の中で、一人の視聴者と出会った。その視聴者は、過去にユウキの動画を見て、自殺を思いとどまったという。動画の中のユウキの言葉に、希望を見出したのだ。
その視聴者の言葉に、ユウキは心を揺さぶられた。自分がしていることは、本当に正しいのだろうか。復讐は、本当にサキを救うことになるのだろうか。
ユウキは、初めて自分の行いを疑問に思った。だが、もう後戻りはできない。ユウキは、闇のお姉さんとして、最後まで役割を果たすしかないのだ。
そして、運命の日が来た。ユウキは、動画の中で、サキのいじめの加害者の一人を見つけたのだ。その加害者は、今や結婚し、幸せな家庭を築いていた。まるで、過去の罪を償うこともなく、幸せに生きているようだった。
ユウキは、復讐の炎を燃やした。絶対に、加害者を許さない。サキの無念を晴らす。ユウキは、持てる知識と技術を全て使い、加害者を絶望の淵に突き落とす動画を制作した。
その動画は、瞬く間に拡散され、加害者の生活は一変した。仕事を失い、家族に見捨てられ、社会から孤立した。加害者は、ユウキの思い描いた通り、完全に崩壊したのだ。
ユウキは、加害者が絶望の中で死んでいく姿を、動画で見届けた。だが、ユウキの心には、何も残らなかった。喜びも、達成感も、安堵感も、何も感じなかった。ただ、空虚な闇だけが広がっていた。
ユウキは、復讐を果たしたにも関わらず、何も得られなかった。それどころか、さらに深い闇に堕ちてしまったのだ。ユウキは、自分が怪物になってしまったことを、ようやく悟った。
ユウキは、闇のお姉さんとしての活動を辞めることにした。復讐は、何も解決しない。過去に囚われず、未来に向かって生きることこそが、サキが本当に望んでいたことなのではないか。
ユウキは、新たな人生を歩み始めることを決意した。過去の罪を償い、希望を見つけるために、できることを全てする。そして、サキの笑顔を、もう二度と曇らせないために。